夜、やることは終わったのに体が重い。特別な理由も見当たらないのに、朝からずっとだるい。あなたがそんな日を何度も過ごしているなら、「鉄が足りていないのかもしれない」という話を耳にしたことがあるかもしれない。責めるつもりはない。ここでは鉄と疲労感の研究を、静かに整理してみる。

鉄の補給は、貧血でない人の疲れにも働くのか?
貧血でなくてもフェリチンが低めの人では、鉄の補給で疲労感が下がったという報告がある。
スイスで行われた二重盲検無作為化試験(Verdon et al. 2003, BMJ)では、原因のはっきりしない疲れを訴える貧血でない女性144人を、鉄剤(元素鉄80mg/日)を飲む群75人と偽薬を飲む群69人に分け、4週間観察した。その結果、10段階の疲労スコアは鉄群で約29%、偽薬群で約13%下がり、その差は統計的にも意味のある大きさだった(差0.95点、P=0.004)。ただし改善が見られたのは、体内の鉄の蓄えを示すフェリチンが50μg/L以下と低めの人に偏っていた。つまり「鉄が足りていない人ほど、補ったときの手ごたえがあった」という整理になる。
別の研究でも同じ傾向が見えるのか?
より新しい試験でも、フェリチンが低めの人で疲労感の低下が示唆されている。
フランスで行われた無作為化試験(Vaucher et al. 2012, CMAJ)は、貧血ではないがフェリチンの低い月経のある女性198人を対象にした。12週間後、疲労スコアは鉄群で47.7%、偽薬群で28.8%下がり、その差にも意味があった(差-18.9%、p=0.02)。一方で、生活の質や抑うつ・不安の指標には、はっきりした差は出なかった。鉄はあくまで「疲労感」という一点に、しかも鉄が不足気味の人に限って働いた可能性がある、という慎重な読み方が要る。どちらの研究も女性を対象にした比較的小さな試験であり、すべての人に当てはめられるわけではない。効果には個人差があります。
今夜の一手: だるさの「理由」を一度確かめる
サプリを増やす前に、できる小さな一歩がある。だるさが続くなら、次の受診の折に血液検査で鉄やフェリチンの状態を確かめてみることだ。数字が分かれば、鉄を足すべきか、それとも別の理由を探すべきかの見当がつく。自己判断で量を増やすより、我々はまず「自分の鉄の状態を知る」ことをそっと勧めたい。疲れが長く続くときは、医療機関に相談してほしい。

