眠れない夜が続いて、薬局でマグネシウムのボトルを手に取る。「眠れないならこれ」と、どこかで読んだ気がする。けれど、その一言は研究のどこまでを言い当てているのか。期待と実際の距離を測っておきたい。

マグネシウムで眠りは良くなるのか?
入眠までの時間が少し短くなった、という報告はある。ただし話はそこで終わらない。
2021年に発表されたメタ分析(Mah & Pitre)は、高齢者を対象にした3件のランダム化比較試験(合計N=151)をまとめた。そこでは、経口マグネシウムによって入眠潜時——布団に入ってから眠りにつくまでの時間——が約17分短縮したと報告されている。数字だけ見れば、悪くない。だがこの研究の価値は、限界まで正直に書いてあるところにある。効果には個人差がある。
その17分を、どこまで信じていいのか?
同じメタ分析は、総睡眠時間の差は統計的に有意でなく、エビデンスの質は低いと著者自身が評価している。
入眠は早まったかもしれないが、トータルで長く眠れたとは言えなかった。さらに、対象となった3試験はいずれも中〜高いバイアスリスクを抱えており、著者は結論の確からしさを「低〜非常に低い」と自ら格付けしている。これは「効かない」という否定ではない。「まだ確かめきれていない」という未確定だ。この二つを混同しないでおきたい。
だから我々は、マグネシウムを「眠りのスイッチ」ではなく「土台のひとつ」として置く。まずは食事から摂れる栄養であり、サプリはその補いだ。
今夜の一手: 期待を1つ、控えめに置き直す
「飲めば眠れる」から「入眠が少し早まる報告がある、くらい」へ、期待の目盛りを一つ下げる。そのうえで、光やカフェインの門限など、眠りの土台を先に整える。持病や服薬がある人は、量を増やす前に専門家へ。効果には個人差があります。


