イヤホンをつけた瞬間、少し足が軽くなる気がする。あの感覚は気のせいなのか、それとも根拠があるのか。運動と音楽の関係は、実はかなりの数の研究で調べられている。断定はできない。それでも、効果の「向き」と「大きさ」を分けて読むと、ちょうどいい距離感が見えてくる。

音楽は運動のパフォーマンスを上げるのか?

メタ分析では、運動中の音楽は気分を上向かせ、パフォーマンスをわずかに上げ、運動中のきつさの感じ方も少し下げたと報告されている。ただし効果はおおむね小さめだ。

Terry らが 2020 年に Psychological Bulletin 誌へ報告したメタ分析は、139 研究・3,599 名分をまとめた大きなものだ。有意な効果が出たのは、気分の快さ(Hedges g=0.48)、身体パフォーマンス(g=0.31)、主観的なきつさの低下(g=0.22)、酸素摂取(g=0.15)。一方で心拍数には差がなかった(g=0.07、信頼区間が 0 をまたぐ)。

効果は「ある」。ただし大きさは小さめで、著者自身も効果は概して小さいと述べている。テンポの速い曲や、競技よりも普段の運動場面で、やや大きめだった。

「運動前だけ」でも効くのか?

運動の前に聴くだけでは、きつさの感じ方は変わらなかったという報告がある。

Delleli らが 2023 年に報告した別のメタ分析(30 研究・474 名)では、運動の「前」に音楽を聴くと、出力(パワー)や疲労感には有意な効果があった。しかし主観的なきつさ(RPE)には差がなかった(SMD=0.01)。きつさが和らぐのは、聴きながら運動している「最中」の効果らしい、という読み方ができる。

まとめると、音楽は気分と続けやすさをそっと後押しする道具だ。記録を保証するものではない。数字の伸びを狙う前に、「今日の一回を始めるハードルを下げる」使い方が、いちばん実利に近い。効果には個人差がある。

今夜の一手: 「始める用」の一曲を決めておく

やる気が出るのを待つより、始めるスイッチを一つ用意する。運動用のプレイリストの先頭に、聴くと自然に体が動く一曲を置いておくだけでいい。走る・歩く・軽い筋トレ、どれでも「その一曲が鳴ったら玄関を出る」と決めておくと、迷う時間が減る。取り戻した夜の10分を、音楽ごと体を動かす側に寄せてみてほしい。