「運動は体にいい」と聞く一方で、「やりすぎも毒だ」という話も流れてくる。走りすぎは心臓に悪い、オーバートレーニングで壊れる——夜、そんな見出しを見ると、始める気も萎える。実際のところ、量と健康はどんな関係にあるのか。煽らずに、研究の範囲で確かめてみたい。
多いほど、際限なく得をする?
運動量と長生きの関連は、増えるほど恩恵が伸び、やがて頭打ちになると報告されている。 Arem らが 2015 年に報告した、60 万人超をまとめたプール解析では、死亡リスクの低下は推奨最低量の数倍あたりで頭打ちに近づいた。興味深いのは、推奨量の 10 倍以上でも死亡リスクの過剰な上振れは見られなかったことだ。著者は、すでに高い量を行っている人にやめさせる必要はない、と結論している。増やすほど直線的に得をするわけではないが、ふつうに運動を楽しむ範囲で「やりすぎ」を怖がる必要は薄い。
少しの運動でも、意味はある?
走る人は走らない人より死亡リスクが低く、その恩恵は少ない量でも見られたと報告されている。 Lee らが 2014 年に報告した約 5.5 万人のコホートでは、走る人は全死因でおよそ 30%、心血管でおよそ 45% 死亡リスクが低い関連が示された。しかも、この恩恵は少ない走行量でも見られた。観察研究なので因果までは言えないが、「たくさん走らないと意味がない」という思い込みを、少し緩めてくれる結果だ。効果には個人差がある。
では「やりすぎ」は、どんなときに問題になる?
主に、競技レベルの過剰負荷と休養不足が重なったときだ。 ヨーロッパとアメリカのスポーツ医学会が 2013 年にまとめた合意文書では、短期の低下から回復して伸びる段階を越え、数週〜数ヶ月にわたり説明のつかないパフォーマンス低下と長引く疲労が続く状態を、オーバートレーニング症候群として整理している。厄介なのは、これを一発で見分ける検査指標がなく、後から振り返って判断するしかないことだ。裏を返せば、趣味の範囲で「休養をとる・睡眠を削らない・調子が続けて落ちたら量を戻す」を守れば、過度に恐れる必要はない。
走りすぎは心臓に悪い?
証拠は限定的で、対象は生涯にわたる極端な持久系競技者だ。 2018 年の総説は、非常に高い運動量と一部の心臓の指標にU字型の関連がありうると提案しつつ、その証拠は限定的だと慎重に述べている。最も一貫した信号は高い量での心房細動リスクだが、これも一般の人にそのまま当てはめる話ではない。多くの人にとっての現実的な課題は、運動が多すぎることではなく、少なすぎることのほうにある。
今夜の一手: 「続けられる量」を基準にする
明日の運動は、限界の量ではなく、続けられる量で決める。恩恵は早い段階からついてくるし、増やすほど直線的に得をするわけでもない。週の中に休養日を一つ置き、睡眠を削ってまで運動しない。それだけで、やりすぎの心配のほとんどは消える。心臓や持病に不安があるなら、量を上げる前に医療機関へ一言を。効果には個人差があります。
