夜、部屋の灯りを落としても、手のなかの画面だけが明るい。眠りたいのに、目は冴えていく。そんなとき、ブルーライトカットの眼鏡を買えばいいのだろうか。それとも、光そのものとの付き合い方を変えるべきなのか。夜の光と眠りをめぐる助言に、研究はどこまで応えているのか。根拠の乏しいところも含めて、正直に並べてみたい。
夜の光は、体内時計をどう動かす?
公的な解説では、朝の強い光が体内時計を前進させ、夜の光は逆に後ろへ遅らせるとされる。 厚生労働省の e-ヘルスネットは、概日リズムと光の関係をこう整理している。朝にしっかり光を浴びると時計は前へ進み、夜に強い光を浴びると後ろへずれやすい。つまり、寝る前に明るい光を浴び続けることは、リズムを遅らせる方向に働きうる。ここで大事なのは、これは光の「向き」を示す一般的な解説であって、一晩の使用で体内時計が壊れる、という話ではない点だ。
ブルーライトカット眼鏡は、効くのか?
短期の目の疲れを減らすという確かな根拠は乏しい。 Singh らが 2023 年に報告した Cochrane の系統的レビューは、17 件の無作為化比較試験をまとめ、ブルーライトカット眼鏡レンズは標準レンズと比べて短期の主観的な目の疲れを軽減しないと結論した。各試験は小規模で追跡期間も短いという限界はあるが、少なくとも「眼鏡をかければ目が楽になり眠りも整う」という期待を、確かな証拠が支えているとは言いがたい。道具を一つ足す前に、立ち止まる価値のある結果だ。
では、何を整えると証拠と噛み合う?
夜に浴びる光の量と、寝る前の使い方を調整するほうが理にかなう。 He らが 2020 年に報告した無作為化のパイロット試験では、大学生 38 名が就寝前 30 分のスマホ使用を控えたところ、寝つく時間が短くなり、睡眠時間や質が改善し、就寝前の高ぶりも下がったと報告された。正直に言えば 38 人の小さなパイロットで、「手放せばそれだけで眠れる」ことを示すものではない。それでも、レンズで光の色を削るより、光を浴びる量と時間そのものを減らすほうが、体内時計の解説とまっすぐつながる。
その関連は、どこまで信じていい?
端末使用と睡眠の関連の多くは横断研究で、因果ではない。 Carter らが 2016 年にまとめた 12 万人超のメタ分析では、就寝時の端末使用は睡眠不足のオッズ比 2.17 と関連していた。だがこれらはすべて横断研究、つまりある一時点の観察であり、「光を控えれば眠れる」と言い切れるものではない。むしろ、眠れない人ほど夜に端末を使う、という逆向きの可能性も残る。だから夜の光を整えることは、証明された治し方ではなく、公的な解説や小さな試験と矛盾しない、無理のない調整という位置づけが誠実だ。
今夜の一手: 寝る前30分、光を半分に
今夜、寝る前の 30 分だけ、部屋の灯りを一段落とし、画面の明るさも下げてみる。眼鏡を買い足す前に、浴びる光の量そのものを軽くする。たった一晩の実験でいい。夜の光が体内時計を後ろへ遅らせるという解説と、寝る前の使用を控えた小さな試験。その二つと噛み合う、コストのかからない一手だ。合わなければ戻せばいい。睡眠の悩みが続くなら、生活習慣だけで抱えず医療機関に相談を。感じ方には個人差があります。
