通知と「切り替え」の話は、鋭い

『大事なことに集中する』(原題 Deep Work)の芯にあるのは、「浅い作業(メール・通知対応・こまめな確認)が、気づかないうちに深い集中を食いつぶしている」という警告です。ここは鋭い。作業を切り替えた直後、脳には前の作業への注意が残り続ける——「注意残留」と呼ばれるこの現象は、ちゃんと研究のある実在の知見です(Leroy 2009)。

だから対策として「まとまった時間を予定として確保する」「通知の鳴る回数を設計し直す」という処方も、我々の記事と方向が一致します。我々は「通知は全部消すより1日3回にまとめる」と書いてきましたが、これは全遮断より不安やFoMOが少なく持続しやすいという研究(Fitz 2019)に基づくものです。ニューポートも「全か無か」ではなく、目的からの選別を勧めていて、その点は堅実です。

「ディープワーク」という枠組みは、割り引く

一方で、いくつか割り引きたい点があります。まず「ディープワーク」という状態そのもの。個々の知見(注意残留など)は本物ですが、「ディープワーク」という枠組みは著者の実務知と自己観察が中心で、そのまま検証された心理学の概念というわけではありません。魅力的なラベルですが、ラベルの強さと証拠の強さは別です。

「SNSはキャリアに不要」という断定も、職種や立場で大きく変わる話で、これは著者の意見です。データとして受け取らないほうがいい。

そして最大の注意点は、この本が「生産性の最大化」そのものを目的に置いていること。我々の立場は少し違います。我々が取り戻したいのは、生産量ではなく、夜の時間と、明日への気力です。追い込みは継続をむしろ壊しやすい——これは運動の研究(追い込むと脱落する)とも同型です。だから本書の熱量は、まるごと真似るのではなく、自分の目的に合わせて選び取るのが賢い読み方だと考えます。

誰に勧めるか

「一日中忙しかったのに、何も進んでいない」という感覚がある人には、原因を言語化してくれる良い一冊です。我々の通知系の記事(バッチング・通知の棚卸し)を先に読んでおくと、本書の抽象的な理論が、今日の自分のスマホ設定に着地しやすくなります。ただし「とにかく生産性を上げたい」という動機だけで読むと、我々が大事にしている回復の文脈とはズレるので、そこは意識して読み分けてください。