真夏の夜、運動を終えて汗だくのままスマホを見ると「汗をかいたら電解質を」の広告が目に入る。汗で抜けるのは本当に水だけではないのか。だとしてどれだけ足せばいいのか。答えは思ったより一筋縄ではいかない。運動時と日常で、話がほとんど逆になるからだ。

運動後に水と電解質ドリンクの間で迷う手元のイラスト

汗で失うのは水だけ?

汗には水だけでなくナトリウムなどの電解質も含まれる。ただし、その量は人によって大きく違う。

Baker 2017の方法論レビューは、発汗速度も汗中のナトリウム濃度も、同じ人の中でも人と人の間でも大きく変動し、測定方法によっても結果が変わると報告している。だから「汗をかいたらナトリウムを何mg補え」という万人共通の数値は、そもそも一つに定められない。

つまり「汗=水だけではない」は正しいが、「だから全員がこれだけ足すべき」には研究上つながらない。ここを混同すると、必要のない補給を習慣にしてしまう。効果には個人差があります。

水はたくさん飲むほど安全?

むしろ飲み過ぎのほうにリスクがある、というのが運動医学の側の指摘だ。

運動関連低ナトリウム血症(EAH)の2015年国際コンセンサス声明は、EAHの主因は発汗によるナトリウム喪失そのものではなく、運動中の過剰な水分摂取だとしている。予防の基本は「喉の渇きに応じて飲む」ことで、あらかじめ決めた量を一律に大量に飲むことは勧めていない。

「足りなくなる前にどんどん飲む」という直感は、条件によっては逆に働く。ここでも軸は、渇きという体の信号に沿うことだ。

運動時と日常で塩と水の話が逆向きになることを示す抽象イラスト

日常でも塩分を足したほうがいい?

日常生活では、多くの人はむしろ摂り過ぎ側にいる。

厚生労働省 e-ヘルスネットによれば、食塩相当量の目標量は成人男性7.5g・女性6.5g未満だが、日本人の実際の摂取量は男性11g・女性9g程度で、国際的にもなお高い水準だという。つまり普通に食事をとっている人にとって、日常の課題は「足す」より「摂り過ぎない」ことが多い。

運動中の一時的な補給と、毎日の食事の塩分は、まったく別の話として分けたほうがいい。広告の「電解質を補え」は、前者の文脈を後者に持ち込むと逆効果になりうる。高血圧や腎臓の持病がある場合は、自己判断せずかかりつけに相談してほしい。

今夜の一手: 「運動時」と「日常」を分けて考える

  1. **次に運動するとき、まずは喉の渇きに応じて水をとる、と決めておく。**一律の大量飲水を先回りしない(約20秒)
  2. 日常の食事では、足すより「いつもの塩分が多すぎないか」を一度だけ見返す。

汗で電解質が抜けるのは事実だが、そこから「全員が足すべき」は導けない。運動時と日常を切り分けるだけで、広告の焦りから一歩離れられる。効果には個人差があります。