深夜0時。親指が勝手に動く。上へ、上へ、また上へ。面白くない動画すら止まれない。「自分はどうしてこうなんだ」と思いながら、指は止まらない。先に言っておく。それはあなたの欠陥の証明ではない。

ショート動画はなぜ止まらない?

「超常刺激」——進化が想定していない濃度の刺激だから、という考え方がある。

超常刺激は、もともと動物行動学の言葉だ。本物より誇張された偽物の刺激に、動物が本物以上に反応してしまう現象を指す。自然界にはない濃度の刺激を前にすると、本能の反応が乗っ取られる。

人間も例外ではない、という指摘がある。私たちの脳が進化した環境に、15秒ごとに世界中の面白い瞬間だけを無限に差し出してくる装置は存在しなかった。ショート動画は、新奇性・音・動き・報酬の不確実性を、自然界ではあり得ない濃度まで濃縮した刺激だと説明できる。

この見方には、現代の神経科学からの裏づけも重なりつつある。パーソナライズされたショート動画を見ているとき、脳の報酬系(腹側被蓋野)がより強く働いていた、というfMRI研究がある(Su 2021)。動物行動学の古い概念が指していた「乗っ取られる本能」の一端が、実際の脳活動としても観察された、という位置づけだ。

止まれないのは、意志が弱いから?

逆だ。刺激の設計が強すぎる。

ショート動画のフィードは、偶然ああなっているわけではない。どの動画で指が止まり、どこで離脱するか。膨大なデータと優秀なエンジニアが、あなたの視聴を延ばす方向に改良を続けている。

つまり深夜の布団の中で起きているのは、「疲れた1人の人間」対「人類史上最強クラスに濃縮された刺激」の勝負だ。それで自分だけを責めるのは、採点がおかしくない?

この見方の利点は、気休めではなく打ち手が変わることだ。自分の弱さが原因なら、強くなるしかない。刺激の強さが原因なら、刺激との距離を変えればいい。後者は今夜できる。

スマホ画面から光が噴き出し顔に降り注ぐ様子の抽象イラスト

濃度で勝てない相手に、どう対抗する?

濃度では戦わない。距離と手間で戦う。

超常刺激の濃さそのものは、こちらでは変えられない。変えられるのは、そこへ到達するまでの距離だ。アプリが1タップの位置にあるか、フォルダの奥にあるか。布団から手が届くか、部屋の反対側か。刺激が強いほど、入口の手間の価値は上がる。

今夜の一手: 濃縮刺激から20センチ離れる

今夜、寝る前に1つだけ。

  1. ショート動画アプリを、ホーム画面からフォルダの2階層奥へ移す(約30秒)
  2. 余力があれば、充電場所を布団から手の届かない位置に変える

指が勝手に動くのは、刺激がそう作られているからだ。だったら、指が届く前に1つ関所を置けばいい。戦う場所を、意志の中から部屋の中へ移そう。