眠れないから、なにか流しておく。ポッドキャストの声、途中まで観ていた動画。安心して目を閉じたはずが、次の話が始まり、気づけば深夜になっている。翌朝、内容はほとんど覚えていない。ながら聴きは、本当に眠りを助けているのか。それとも起きていさせているのか。直接の証拠が限られる領域を、断定せずにたどってみたい。

ながら聴きは睡眠に悪い、と言い切れるのか?

就寝時の音声メディアそのものを直接調べた強い証拠は、今回照合できた範囲では限られていた。 だから「悪い」と断じることはできない。引けるのは周辺の知見だ。Bernardi らが2006年に行った小規模な生理研究では、速いテンポの音楽は覚醒方向に働き、むしろ音楽の合間の静かな休止のときに最も強い弛緩が観察された。これは睡眠そのものを測った研究ではないし、24名と小さい。それでも、流し続ける音がいつも落ち着かせるとは限らない、という慎重さの根拠にはなる。

静かにすれば眠れる、とも言えるのか?

静けさが人の睡眠を良くすると断定できるほどの証拠も、実はまだ強くない。 Kirste らが2015年に報告した、静けさが海馬の神経新生を高めたという知見は、マウスの動物実験だ。人にそのまま外挿はできない。ここで正直でいたいのは、「音は悪い、静けさは善い」という単純な図式で語れるほど、証拠はそろっていないという点だ。無音が落ち着かない人もいる。だから万能の正解を探すより、自分にとって覚醒を上げすぎないほうを選ぶ、という控えめな基準が現実的だ。

では、何が本当の問題なのか?

内容そのものより、止める手間がないことが深夜化の正体になりやすい。 He らの2020年の予備試験では、就寝前の覚醒が下がると入眠が改善したと報告された。音声メディアに限った検討ではないが、覚醒を上げないことには一定の意味がある。そして Grüning らが2023年に示したのは、開く前に一手間を挟むだけで行動が減るという方向だ。自動再生や「次の話」は、その逆で、手間ゼロのまま続く。つまり止まらないのは意志ではなく設計の問題だ。だったら、設計の側で止まるようにすればいい。

今夜の一手: 流す前に、スリープタイマーを先にかける

なにか流したい夜は、再生する前にスリープタイマーをかけておく。そして次の話へ自動でつながらない設定にし、端末は手の届かない場所に置く。こうしておけば、消すために起き上がる必要も、意志で止め続ける必要もない。時間が来れば、勝手に静かになる。やめるかどうかを毎晩がんばるより、止まる仕組みを一度だけ用意しておくほうが、ずっと楽だ。