当たっているところ:寝室の一手
『スマホ脳』のなかで、我々が自信を持って「これは確かです」と言えるのは、寝室とスマホの話です。寝る場所に端末があるだけで睡眠が削られる——この指摘は、12万人規模の大きな研究とも、我々の記事の結論とも一致しています。充電器を寝室の外に出すという一手は、意志の力ではなく配置の変更で夜を取り戻す、いちばん費用対効果の高い環境設計です。
スマホが「つい見てしまう」ように設計されているという指摘も、方向としては妥当です。通知や無限スクロールが偶然の産物ではなく、注意を引くための設計であることは、この本を読む価値のある視点です。
割り引きたいところ:机の上と、因果の物語
一方で、慎重に読みたい主張もあります。ひとつは「スマホが机の上にあるだけで集中力が下がる」という有名な話。これは Brain Drain と呼ばれる2017年の研究がもとですが、2022年の追試で再現に失敗しています。効果があるかもしれないし、ないかもしれない——だから我々は「確実に下がる」とは書かず、「試す価値のある環境設計」という温度で紹介しています。
もうひとつは、スマホの普及と、うつや不調の増加を結びつける語りです。両者に関連があるように見えるデータはありますが、「スマホが原因で不調になる」という因果は、メタ分析レベルでは結果が割れていて確定していません。相関の話を因果の話として受け取ると、必要以上の不安に飲まれます。
そして骨格にある「人類は狩猟採集時代の脳のまま」という進化心理の物語。腑には落ちますが、反証しにくいストーリーでもあります。物語の魅力と、証拠の強さは別物です。
結論:入口として優秀、鵜呑みは禁物
警鐘の書として、この本は優秀な入口です。特にスマホと睡眠の関係は、今夜から動ける具体策に直結します。ただ、全体のトーンは「スマホは危険だ」という一方向に振れているので、個々の主張は出典と追試の有無で選り分けながら読むのがおすすめです。怖がらせる本ではなく、配置を変えるきっかけとして使う——それがいちばん賢い使い方だと考えます。