汗が滴る。塩分が抜けていく気がして、飲み物を流し込み、塩も足したくなる。運動と水分の話には、そんな定番の直感がついて回る。だが「たくさん飲んで塩を足す」は、どこまで裏づけがあるのか。まず主因はどこにあり、なぜ万人共通の数値が出せないのか。正直に並べてみたい。
汗で塩が抜けるのが、一番の問題?
国際コンセンサス声明では、運動関連低ナトリウム血症の主因は発汗そのものではなく、運動中の過剰な水分摂取だと報告されている。 Hew-Butler らが 2015 年にまとめた第 3 回 EAH 国際コンセンサス声明は、専門家の合意文書だ。そこでは、汗で塩分が失われること自体よりも、渇いていないのに大量に飲むことで体内のナトリウムが薄まる方が、主なリスクとして挙げられている。「塩が抜けるから足す」という直感とは、力点がずれている。
では、いつどれだけ飲めばいい?
一律の数値は示せない、というのが誠実な答えだ。 Baker が 2017 年に整理した方法論レビューによれば、発汗の速度も汗の中のナトリウム濃度も、同じ人の中でも人によっても大きく変わり、体のどこで測るか、どの方法で測るかでも結果が動く。つまり「1 時間に何ミリリットル、塩は何グラム」といった万人向けの処方は、そもそも一つの数字に落とし込めない。だから声明が基本に置くのは、量の指定ではなく、喉の渇きに応じて飲むという原則だ。
日本では、塩をさらに足すべき?
多くの場合、日常の食事ですでに塩分は多めだと知っておきたい。 厚生労働省の解説では、食塩相当量の目標量は成人男性で 7.5g、女性で 6.5g を一日の未満とされ、重症化予防の観点ではさらに低い値が示される。ところが日本人の実際の摂取は男性で約 11g、女性で約 9g と、国際的にみてなお高い。もちろん長時間の激しい運動などでは補いが要る場面もある。ただ普段の運動で反射的に塩を足すことが、常に理にかなうとは限らない。効果には個人差があり、体調や運動の中身を踏まえて考える話だ。
今夜の一手: 渇きの信号を、無視しない
次に体を動かすとき、時計や決めた量ではなく、喉の渇きを手がかりに飲んでみる。渇く前に無理やり流し込むのでも、我慢して干上がるのでもなく、体の信号に応じて一口ずつ。塩を足すかどうかは、その日の運動の長さと普段の食事を思い出してから決めればいい。数値で縛れないからこそ、感覚に耳を澄ます余地がある。異変が続くときは、抱え込まず医療機関に相談を。
