夜の机。スマホは伏せて置いてある。通知も鳴っていない。それでも、目の前の作業になかなか入り込めない。気が散るのは意志の弱さのせいだと責める前に、置き場所の研究を見てみたい。

白い机上のノートと離れた棚に置かれたスマートフォンの静物画像

スマホは手に取らなくても集中を奪う?

奪いうる、と報告する研究がある。手に取らず注意をそらさずにいても、近くにあるだけで利用できる認知資源が下がった。

Ward et al.(2017)は2つの実験で、自分のスマートフォンが手の届く場所にあるだけで、ワーキングメモリや流動性知能を測る課題の成績が下がることを示した。重要なのは、参加者がスマホを手に取らず、通知に気を取られてもいなかった点だ。それでも成績は下がった。つまり「見ない・触らない」という我慢だけでは、影響を消しきれない可能性がある。近くにあるという事実そのものが、注意の一部を静かに引き受けている、という解釈だ。これは実験室の課題成績に基づく知見であり、日常のすべてにそのまま当てはまるとは言えない。

どこに置くと成績がよかった?

別室に置いた条件が最もよく、机の上やポケットにある条件は劣った。

同じ研究で、スマホの置き場所を変えて成績を比べている。別の部屋に置いた条件が最も成績がよく、机の上やポケットにある条件はそれより劣った。この差が示すのは、対策の方向が「もっと我慢する」ではなく「物理的な距離を取る」にあることだ。距離を取れば、意志の力を使い続けなくても、注意が引かれる余地そのものが減る。さらにこの認知的コストは、スマホへの依存傾向が高い人ほど大きかったと報告されている。近くにあるほど気になる人にとっては、置き場所を変える効果が相対的に大きい可能性がある。

気が散るのは意志が弱いから?

そうとは限らない。この研究は、意志の強弱ではなく置き場所の問題として説明する。

気が散るたびに自分の弱さを責める必要はない。手に取らずにいても近くにあるだけで注意が向きうるなら、それは意志ではなく環境の設計の話だ。責めても置き場所は変わらないが、置き場所は今すぐ変えられる。ここで前向きに考えたいのは、取り戻した集中を何に使うかだ。減らすこと自体が目的ではなく、静かな時間で読みたかった本や、後回しにしていた作業に向ける——そのための余白を作る、と捉えると続けやすい。効果や感じ方には個人差があり、これは実験室の知見であって断定はしない。

今夜の一手: スマホを別の部屋に置く

今夜、作業や就寝の前に、スマホを別の部屋に置いてみる。手の届く場所から一つ分だけ遠ざける、それだけでいい。机に戻したくなったら、その気持ちも責めずに眺める。近くにあると気になるのは、あなたが弱いからではない。置き場所を変えて生まれた数分を、何に使いたいか——それを一つだけ思い浮かべておく。